運命の一日
その日は朝から天気が良かった。
家でゴロゴロしているのはもったいなかったので、またしても近所のドトールに来てしまった。
そろそろ面接結果も出たのではないだろうか。
なお、今回の最終面接に至る経緯は以下の記事をご覧ください。
面接を振り返ると、「あの話は盛り上がったな」「あの質問にはこう答えればよかった」など色んな思いが頭をよぎる。
あとは結果を待つだけ。
ついついメールチェックばかりしてしまう。
気になる3つ目のメール
一通りの作業を終えて時計を見ると、入店からもう3時間が経過していた。これ以上は長居できそうにないので、場所を図書館に移すことにした。
ここは今日も人で賑わっている。といっても若い人はほとんどおらず、大体がおじいちゃんやおばあちゃんだ。
私もその中に混じって自習室の席に陣取り、英語の勉強にとりかかった。
内容は簡単なので大してつまるところもなく、予定していた項目をスイスイと消化していくことができた。
そして気付けばすでに17時半。最近は夕方になると外はもう真っ暗だ。
図書館に来てからもう何時間もメールを確認していないことに気付いた私は、急いで鞄からPCを取り出し、メールをチェックしてみた。
新着メールは全部で20件で、そのうち17件はどうでもいいスカウトメールやDM。
そして残りの3件は選考結果を知らせるメールだった!
これはもしかして!? そして劇的なフィナーレへ
この3件のうち1つ目と2つ目は、別件で応募した企業からの書類選考不通過を知らせるメールだった。
見込みが極めて薄いことを知りつつダメ元で応募したのだから、まあこれは仕方ない。いつものことだ。
そして問題は最後の3つ目。
大体の場合、タイトルで本文の内容を推測することができるのだが、このメールタイトルにはそれが通用しなかった。
いつもとは異なるタイトル名だったので、いい知らせなのか悪い知らせなのか判断がつかない。
ただ、社名が併記されていたので、最終面接の結果連絡であることは容易に分かる。
それにしても、ここまで来るのには色々とあった。
妻との別居話が持ち上がったり、新居探しが二転三転するなど常にゴタゴタしていた。
しかし、このメールがそんな人生の再スタートを切るきっかけを与えてくれるかもしれない。全てを変えてくれるかもしれない。
そんなメールの内容がこちら☟☟
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「厳正なる選考の結果、誠に残念ながら今回はお見送りとなりました。未筆ながら貴殿の今後益々のご活躍をおいの死します。(原文ママ)」
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ん? おや? 見間違いか?
しかし、何度見返してもそこに「内定」の二文字はなく、あるのはいつもの見慣れたお祈りフレーズだけ。
さらには、メールの「お祈り」の文字に誤字があるではないか…よりによって「おいの死」とタイプミスするとは…
結局、私の最終面接は儚く散った。
大事なものが手のひらからスルリと抜け落ちた気がする。すぐ目の前にぶらさがっていたというのに…
これが最近で最も大きな出来事だった。
虚無感に襲われる40代無職
これが転職を繰り返してきた40代無職男の末路だ。
転職先が見つからなければ活躍することもできない。もうどうしたらいいのだろう。
図書館の中で天井を見上げ、人目もはばからず大きなため息をついてしまった。
さすがにもうこれ以上勉強を続ける気力がなくなってしまったので、すぐに帰宅することにした。
周囲はもう真っ暗。大きな期待を寄せていた企業からお祈りされてしまったことで、いつも以上に外が暗く見えた。
帰宅してからもいまいち元気が出ない。テレビやネットを見ていても内容が頭に入ってこない。
おまけに食欲もなくなった。この日は妻が仕事で外泊していたので、自分の夕食はトースト一枚だけにした。そしてソファーに横になり、面接でのことをあらためて思い返してみる。
一次面接は大いに盛り上がったと思うし、手応えは十分にあった。
技術的な質問に対しては自分自身の考えを答えることができたし、用意した資料を面接官に手渡すと、それに対する反応もすこぶる上々。
しかし、役員を交えた最終面接は少し違った雰囲気だったように思う。
質問として私の経歴に関する内容が9割近くを占めていた。
ただ、それは事前に予想できていたことなので、ネガティブな回答にならないよう対策して臨んだが、特に社長の表情があまり冴えないように感じた。
どうやらこのあたりが今回の敗因だったのではないかと思っている。
40代無職男、採用担当者にメール凸
なぜかその晩はよく眠れた。朝まで一回も目覚めなかったくらいだ。
普通、悔しさと悲しみのあまり眠れないものだと思うが、なぜかグッスリだった。
しかし、起床して朝食を食べ終わると、どうしても諦めきれない自分がいた。私の経歴をこれほど活かせる仕事は今後も滅多に出会えないはずだ。
そこで、今回の落選理由をメールで聞いてみることにした。もちろん、「死」という誤字があったことも嫌味のようにちょっぴり付け加えておいた。
クレーマーと同じことをしているのは重々承知しているが、もうそんなことはどうでもいい。
今後の糧にするためには何でもしようという思いでいっぱいだった。
どうせ落ちてしまったのだからヤケクソだ。
すると1時間後、採用担当者から電話がかかってきた。
私が落選した理由とは
まず先方からの第一声は「誠に失礼いたしました!」
誤字は仕方ないとしても、それがさすがに「死」という文字では失礼極まりないと考えてくれたのだろう。
こちらも悪気がないことはよく分かっており怒ってはいないが、さすがに詫びの一言は欲しかったので、良心的な担当者だったことに安心した。
そして、肝心の落選理由についても特別に教えてくれた。おそらく、誤字があったことへのお返しという意味なのかもしれない。
その担当者が言うには、今回の件は転職回数の多さがネックになったそうだ。スキル的には全く問題なかったが、転職を繰り返してきた理由が役員にとって納得的なものではなかったらしい。
あの時の社長の曇りがちな表情はそういうことだったのだ。一次面接では好印象だったが、役員面接でそれがひっくり返ってしまったということか。
電話が終わり、やはり思ったとおりの原因だったかと深くため息をついた。
2~3回程度の転職ならばまだ弁解のしようもあるが、私のように4回以上となると、どう説明しても言い訳にしかならない気がする。
ただ、裏を返せば、専門的な技術については問題ないとのお墨付きをもらえたわけだ。これはこれで自信になる。つまり転職回数の問題さえクリアすれば何とかなりそうだ。
そういう意味では今回は残念な結果だったが、忙しい役員が最終面接の時間を作ってくれたり、落選理由をちゃんと教えてくれたこの企業には感謝だ。
もし書類選考で落とされていたら、わずかな自信さえつけることはできなかっただろう。
気分的に落ち込んでいたが、またこれで面白そうな会社を色々と見て回れると思うと少し楽しくなってきた。
そればかりでなく、今の自分に欠けているものや、次回面接(いつになるか分からないが…)で自分を売り込むためのアイデアも浮かんできた。
漫画のドラゴンボールでは、主人公が死んで復活するたびに以前よりも強くなるというパターンがあったことを思い出す。
私もそれにならい、今までの自分にはなかった武器をこの再就職活動で身に付ければいいのだ。
今回は残念な結果に終わったが、こんな私でも最終面接までいけたことと、客観的に評価してもらえる経験を再認識できたことからすれば、収穫はあったと言えるのではないだろうか。
まだまだできるはず。きっとどこかにこの経験を欲しがっている会社はある!
今回の結果にもきっと何かの意味があるはずなのだ。
◆真・転職回顧録-再起動編 24/29へ続く
次回:最終面接の結果を妻と実家に伝えてみた