アルバイト面接が決まった。
親しい知人からの紹介なので、面接とはいってもほぼ出来レース。よほどの失態がなければ合格できるはずだ。
しかしそうはいっても少し心配だ。準備しておくに越したことはないので、一応、いつもの履歴書と職務経歴書を準備した。
書類関係はこれで大丈夫だろう。問題なのは服装だ。
20代くらいの若い人なら普段の服装でいいのだろうが、私のような40代中年は年相応の社会常識が求められる。気軽にいつもの服装で、というわけにはいかない。
スーツなのかビジネスカジュアルなのか迷うところだ。
そこで、アルバイトを紹介してくれた人を経由して先方の会社に確認してみてもらうと、『作業で服が少し汚れるかもしれないので、面接は平服の方がいい』とのことだった。
そしてむかえた面接当日。
久々の面接に緊張気味の40代無職中年男
前日夜はちゃんと起きられるかどうか不安だったが、なんとか早めに起床することができた。
時間に余裕をもって家を出たおかげで、面接時間の1時間半前に現地の最寄り駅に到着した。会社まではここから徒歩10分くらいのところだ。
時間にはかなりの余裕がある。
改札を出るとすぐ近くにドトールがあったので、そこでコーヒーでも飲んで気持ちを落ち着けることにした。それにしても最近、ドトールを利用頻度が多い。そろそろ会員カードでも作ろうか…
さて、ここは今まで一度も来たことのない場所。こうしてあらためて周囲を眺めると、駅周辺は居酒屋などの飲食店が多く立ち並び、なかなか賑やかだ。
そんなことを考えてコーヒーをすすりながら面接対策を立てていたのだが、こうしたアルバイト面接で困るのは志望動機だ。
はっきりいって、こちらとしてはお金さえ稼げればそれでいいので、単なるつなぎの労働に過ぎない。明確な志望動機などはないのだ。
そんな感じなのでいくら考えても白々しい言葉しか思い浮かばない。ここは出たとこ勝負ということで腹を括った。
やがて時間が迫ってきたので会社に向かう。
グーグルマップを見ながら、特に道に迷うこともなく目的地に到着した。距離にして大体1.5km位だろうか。
思えば、ほぼ一年ぶりの仕事だ。一時的にゴミ屋敷の後片付けなどで糊口をしのいでいたものの、もちろん、それだけでは生活費を賄うことなどできない。
今までどうやって生活できていたのか我ながら不思議だ。それだけに、このアルバイトでの収入は非常に貴重だ。
また、経済的なことだけでなく、精神的にも今の状態が続くことはあまりよろしくない。仕事での対人的なコミュニケーション感覚をこの機会に取り戻さなければ…
いよいよ面接開始
会社が入っているビルはオートロックで施錠されているので、入り口のインターホンで担当者を呼び出した。
受付の人に私の名前と面接に来たことを告げると、担当者がわざわざ下まで降りてきてくれた。小さな会社なので、担当者といっても社長さんだ。
まずはアルバイトのチャンスをもらえたことにお礼を述べると、3階のオフィスに案内してくれた。通された奥の会議室には、既にマネージャーさんが椅子に座っていた。
名刺をもらってから、履歴書と職務経歴書を提出すると開口一番、こう言われた。
『では、これが労働契約書です。署名と押印のうえ提出してくださいね』
拍子抜けした。
労働契約を交わすということは採用決定ということだ。面接もなしにそれでいいのだろうか?
後日談としてこの時のいきさつを聞いたところによると、最初に会社の入り口で交わした話から、変な人ではなさそうだと察してくれたらしい。
そもそも、私の人となりを予め聞いていたので、あらためて面接はしなくても大丈夫なのだそうだ。これが縁故の強みというものか!
ひとまずは安心。これでなんとかまた、少しの間働くことができそうだ。
そこからは30分ほどの間、仕事内容の説明を受けた。郵送物の開封作業、書類の仕分け、データ入力がメインだ。
そして場所を移動して、早速仕事を始めることになった。
職場の人たち
作業場はオフィスの一角。
大きな会社ではないので、普段社員の人たちが働いているスペースの片隅を確保し、そこで作業することになった。
人員は私の他にもう一名。女性の若手新入社員だ。
この人は中途入社で20代半ば。まだ見習いと言ったところらしい。
どうやら、入社してまだ二ヶ月と日が浅いので担当できる仕事が限られており、とりあえず、この開封作業をさせるという感じのようだった。
そして、私たちを管理するのは30代半ばの中堅男性社員だ。管理といっても作業の進捗や勤務態度を見張るといった感じではなく、同じ仕事をする仲間といった感じ。
先ほどの女性社員とこの男性社員は二人とも非常に穏やかな性格なので、威張るわけでもなく、かといって気を遣いすぎるわけでもなく、丁度良い距離感で接してくれた。
一般的には、20歳くらいも歳の離れた人達の下で仕事をするのをためらう40代や50代の人はたくさんいるのかもしれない。しかし、私は幸いなことに、そんなことを何とも思わなくなった。
これもきっと、転職を繰り返してきたおかげなのかもしれない。
そしていよいよ作業開始。郵送物はざっと1万通ほどある。
山積みされた封筒を取り出してはカッターを走らせ、ひたすら封開けに徹する。開封アンド開封アンド開封。
小学生でもできる内容だ。でも、それでお金がもらえるなら、こんなにありがたい話はない。
ただ、それだけではあまり面白くないので、どうすれば作業を早く終わらせることができるかを考えてみた。
試しに一度に二枚を開封してみようとしたが、カッターの刃が通らない。私の試みはあっさりと失敗に終わった。
どうやらひたすら作業に徹するしかないようだ。
その後6時間ほど、私はマシーンのようにひたすら開封を続けた。
その日の仕事が終わり…
そして終業時間を迎えた。単純作業なので頭は全く疲れない。
あるとすれば気疲れだ。
なにせ一年ぶりの仕事なので、体力的なものより精神的な疲れの方が先にくる。ただ、心地よい疲れでもある。
40代無職アルバイトの身になってつくづく思うのは、約1万円の稼ぎとはいえども、それを稼ぐのは本当に大変だということだ。
社員でいれば毎月定期的にお金が入ってくるので、そんなことには気付きにくいが、底辺をさまよう私はそれをひしひしを感じる。
私は仕事の充実感に包まれながら帰路につき、帰りの電車に乗った。帰宅ラッシュの時間帯なので車両はもちろん満員。これも久々の感覚だ。
外はやや薄暗くなっており、車窓から外の景色を眺めながら今後のことを色々と考えた。
今はまだこんなフリーター生活でもまだなんとか暮らしていける。しかし、今後のことを考えると一刻も早く次の就職先を見つけなければいけない。
なるべく前向きに考えながら日々を送ろうとはしているが、そんなことを考えるとやはり気が重くなる。
やがて自宅の最寄り駅に到着した私は、久々に外食することにした。少しばかりではあるがアルバイト収入があるので、外食することに対する罪悪感が少なくて済む。
といっても贅沢ができるわけもない。そんな私にピッタリなのは牛丼屋だ。
心なしかいつもよりはおいしく感じる。これも労働のおかげだろうか。
そして帰宅。
シャワーを浴びた後、いざ机に向かって勉強をしていると猛烈な眠気に襲われた。久々の仕事で想像以上に精神的な疲れがきたのだろう。
もし眠気を我慢して勉強を続け、明日遅刻するようなことがあってはならないので、ここは素直に寝ることにした。
今の生活のペースに慣れるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。
◆真・転職回顧録-再びの就活編 9/27へ続く
次回:40代無職底辺バツイチ男の生活の様子
アルバイト無事に採用されて良かったですね。
アルバイトとはいえ定期収入があると心にも余裕が出ると思いますので、それが就活にも良い影響があると良いですね!