ここまでのおさらいと今回のお話
この日も地獄の郊外客先回りが続く。
この頃になると、マツダくんとオタクさんも外回りにだいぶ慣れてきた様子。
しかし、ダメ営業さんの私は契約をとる瞬間を彼らに経験させてあげることができない。それだけが心残りだった。
そんななか、あるサービスに興味を示すお客さんが現れた。
はたして、元無職今ダメ営業マンはこれをモノにすることができるのか?
引継ぎも残すところあとわずかとなった
マツダくんとオタクさんはだいぶ外回りにも慣れてきたようだ。
まだ単独で契約獲得というわけにはいかないだろうが、少なくともお客さんのところに話を聞きに行くくらいはできるだろう。
その日も郊外の客先を回っており、移動距離がいつもよりも長かった。
1件目を終え、2件目の訪問先までは徒歩で30分ほどある。
あいかわらず郊外の外回りは嫌だ。
私でさえこうなのだから、二人も同じ気持ちだろう。
ただ、一人っきりで歩き回っていた時よりははるかにマシだ。
たわいもない会話をしながら歩いているだけでも随分と心持ちが違う。
そしていつものように三人で歩いていると、マツダくんがだんだんと遅れをとりだした。
普段よりも長距離の移動のため歩き疲れたらしく、少し休みたいようだ。
まったく手のかかるやつだ…
仕方なしに近くにあった駄菓子屋でお菓子を買い、その軒先で少し休むことにした。
ちなみにこのマツダ君、学生時代は体育会系のラグビー部だったので体力はあるはずなのだが…ちょくちょく泣き言が入るのが玉にキズだ。
オタクさんといえば、相変わらずニコニコしている。
歩きやすい靴を履いてくるなど、彼女の方が用意周到で頼もしい。
なんとも不思議な凸凹コンビだが、それがいいのかもしれない。
そして少し休んで出発。
2件目の訪問先は設立間もない小さな会社
相手方の担当者によるとインターネットの通信費を節約したいということだった。
まさにピッタリのサービスがある!
これは千載一遇のチャンスだ。
私はこの機会を逃したくないと考え、そのサービスを説明するようマツダくんに促した。
ところどころ私がフォローしながらのたどたどしい説明ではあったが、一通りの流れを理解してもらうことができた。
しかし、ここでマツダくんにトラブル発生。
普段なら関連するサービスのパンフレットを持ち歩いているはずが、今日に限って会社に忘れてしまったという。
すると、横からオタクさんがさりげなく該当のパンフレットを机の上に置いた。
オタクさん、ナイス!
実は私もそのパンフを持っていたのだが、それよりも先にオタクさんが鞄から出したのだ。
なかなかデキる女子だ。
そのパンフを見たお客さんはぜひ契約したいと言ってくれたので、その場で申込書にサインと押印をもらうことができた。
あとは会社で必要な手続きをとるだけだ。
これでやっと二人にサービス説明から契約成立までを体験してもらうことができた。
正直なことを言うと、このサービスは利益が薄い。
しかし、二人には契約成立の瞬間をなんとしても体験してほしかった。
今回、それが実現しただけでも、この引継ぎ兼OJTは大成功とではないかと思った。
マツダくんには「これはお前が取った契約だ」ということを伝え、ミスなく社内手続きを踏むよう念押ししておいた。
また、素晴らしいフォローをしてくれたオタクさんにも感謝するよう言っておいた。
無職になる予定のダメサラリーマンは少し安堵する
ちなみに彼はさっきまで疲れたといっていたが、この時は終始ニコニコしていた…
さて次は三件目というところで、時間がかなり押していることに気付いた。
駄菓子屋での休憩と予想外の契約で思ったより時間がかかってしまったようだ。
そしてここはなにもない辺境の地。
遅刻しないようにするにはタクシーを使うより方法がなかった。
ここは自腹を切るしかない。
領収書など切ったら、後で何を言われるか分からない。
そしてなんとかその日の予定を終えて帰社した私たちは、マツダくんが契約を取ったことを上司に報告した。
おそらく上司も、私のフォローのうえに成りつ契約だということは分かっていたと思う。
しかしそこは私の意を汲んでくれ、あえてマツダくんを褒めてくれた。
それでいいのだ。
二人のモチベーションをあげることだけに注力してほしい。
また、そのあとで、オタクさんのことも報告した。
彼女はいつもニコニコしていて場を和ませることができる。そして何事にも積極的で、人当たりがよく、うまくいけば化ける可能性があるとも言い添えておいた
もうすぐ引継ぎ兼OJTが終わる。少し寂しい気がした。
この営業会社での勤務もついに最終日を迎えた。未練は全くないが、最終日となると、いつもとはまた違った心境になるのかもしれない。はたしてどんな一日になるのか?