ここまでのおさらいと今回のお話
工場での仕事にも慣れ、周囲とのコミュニケーションも上々。
アルバイトとはいえ、これなら気持ちよく仕事ができそうだ。
それと同時に、安定して働くことができれば、しばらくは固定収入も期待できると安心していた。
そんなある日の出来事。
仕事が終わり、作業終了の点呼を受けている時、派遣会社の社員から呼び出された。
そこで私が告げられたこととは?
居心地の良い職場
工場でのアルバイトにも少しづつ慣れてきた
私の班は約10人から構成されており、そのほとんどが自分よりも年上のおばちゃんだ。
みな気さくな人たちで、休憩時間に声をかけてくれたり、おやつとして持参したお菓子を分けてくれる。
私も、そのお返しとして近所のスーパーで買ってきたお徳用お菓子パックを配ったりしていた。
こうしたコミュニケーションは、円滑な人間関係の構築に欠かせない。
さて、私は普段、自分の境遇を隠しながら生活していたが、ここではそんな気苦労は無用だった。
働き盛りの中年男がアルバイトしているので、何かしらの訳ありであることは分かっているはずだからだ。
なので、無職であることを堂々と公言していた。
また、夕方からは塾講師として働いていることを話すと、面白がって聞いてくれた。
このころ私は、同じ班の60代後半のSさんという男性とよく話すようになった。
Sさんは仕事を定年退職後、お小遣い稼ぎのためにここで働いているらしい。
孫もいて、悠々自適とまではいかないが、比較的ノンビリ過ごしているということだった。
Sさんは冗談を交わしながらも私の身の上のことも心配してくれており、とてもかわいがってくれた。
もしかしたら、息子と年齢の近い私に親近感を抱いてくれていたのかもしれない。
そんなこともあり、ここでの仕事にストレスはなく働きやすい職場だった。
そんな人たちに囲まれながら働いていたわけだが、なかにはまだ20代の人達もいた。
聞けば、就職活動中というわけでもなく、いわゆるフリーターだそうだ。正直、非常にもったいないと思う。
就職や転職において、若さは最大の武器だ。
それを無駄にしてほしくはない。
私の口からそんなことを話しはしなかったが、私以外の年長者たちもみな彼らを心配していた。
きっと私が想像している以上に、アルバイトで生計を立てている若年フリーターは多いのだと思う。
働いているときは気付きもしなかったが、いったん正社員というレールから外れてアルバイト生活に堕ちてしまうと、今まで見えなかった景色が見えてくるようになる。
突然の呼び出し
このアルバイトは一ヶ月の期間限定だった。
つまり、せっかく仲良くなれたこの人達と働けるのもその間だけだ。
そう思うとちょっと寂しいなと思っていたある日の仕事終わり、派遣会社の社員から呼び出しを受けた。
会議室に来てほしいということだった。
遅刻もしていないし、勤務態度も真面目そのもの。なぜ急に呼び出されたのか分からなかった。
そこで作業が終わってから会議室へ入ると、そこにはすでに数名のアルバイトの人たちがいて、派遣会社の社員と面談をしていた。
面談している人は皆、どこかで見かけたことのある人達ばかりだ。
そして私の番になり、難しい顔をした派遣会社の社員からこう告げられた
『このお仕事はあと3日でおしまいになります。』
40代中年無職は派遣切りされた…
この仕事をはじめてまだ一か月も経っていないというのに…
この派遣会社に登録した際、期間終了前に仕事が終わる可能性があるとの説明は受けていたが、この案件に関してはおそらく大丈夫ではないかということだった。
しかし、他の派遣会社とのパワーバランスや減産などで、その状況が変わったらしい。
面談がある時点で嫌な予感はしていたが、それが現実のものとなってしまった。
ただ、私としても「はいそうですか」と簡単に引き下がるわけにはいかない。
派遣切りに食い下がってみた
ここでの仕事は、塾講師とのダブルワークをしていくうえで最適な条件がそろっているのだ。
他に仕事はないか聞いてみると、同じ工場内で他の仕事があるという。
私は迷わずその仕事を紹介してもらうことにした。
しかし、派遣の仕事はやはり不安定であることを今回の一件で実感した。
そして安定した生活を送るためにも、一日でも早く社会復帰しなければならない。
工場での仕事を終えて、次の塾アルバイトから帰宅したあと、派遣切りにあったことを妻に話した。
少し不安な表情を浮かべていたが、違う仕事を紹介してもらえることを伝えると安堵していた。
おそらく彼女は、私以上に今の生活に不安を抱いているに違いない。本当に申し訳なく思った。
そろそろ年末が近づいてきていた。
なんとか年は越せそうだが、依然として先行き不透明な状況が続く。
突然の派遣切りの宣告。まさか、塾講師のアルバイトも!?