ここまでのおさらいと今回のお話
年が明け、父が田舎から上京してきた。
せっかくなので、妻と私とで美術館などを案内することにした。
そもそも、父が上京してきた本当の目的はなんだったのか？
きっと、私が今どういった状況にあるかを確かめたかったのだろう。
そして私は、父から託された母からの手紙を見て涙が出そうになった…
年が明けて…
父から電話があった。
近々、仕事の関係で父が上京してくるという。
しばらく顔を見せていなかったので、そのついでに一度会おうということになった。
妻はあまり会いたくなさそうだったが、そういうわけにもいかないのでなんとか説き伏せて一緒に会うことにした。
待ち合わせ場所は丸の内。
そこから簡単に都内を案内し、父が見たいと言っていた美術館に行ってきた。
そして、館内をひととおり巡った後、近くの喫茶店で休憩することにした。
あの時、父はどんな想いでいたのだろう。
無職の息子が心配で、美術鑑賞を楽しむどころはなかったのではないだろうか。
話題はもちろん私が仕事を辞めたことや（40代無職は再就職できたのか？その結末は…【転職回顧録-迷走編17/18】～ダメ営業マンはクビ！また無職になった。【転職回顧録-営業マン編18/19】を参照）、今後のことなど。
そして現在は、工場と塾を掛け持ちしてアルバイトしていることを話すと少し驚いていた。
また、転職サイトやハローワークで就職活動はしているが、『サラリーマンに向いていないのかもしれない。』ということも正直に話した。
ただ、このことは母以外には話さないでいてほしいとお願いした。
父は少し悲しそうな表情を受かべて、『そうか』とだけつぶやいたのがひどく印象的だった。
義実家でも同じようなことは話していたが、実の父親に自分の状況を話すのが一番つらかった。
40歳を超えてもなおアルバイトを掛け持ちしているのはあまりにも恥ずかしいし、情けない。
一向に未来が見えないなかで私はどうしたらいいのだろうかと悩みは尽きない。
また、新しいことをするにも何をしたらよいか皆目見当がつかない。
かといってこのままアルバイトを続けるわけにもいかない。
このとき、私は完全に人生の方向性を見失っていた。
父は『そのまま塾に就職したらどうか』と言っていた。
おそらく父は、私が塾講師として勤務することを期待しているのだろう。
しかし教育産業に就職するということは講師として働くのではなく、塾の運営者として働くことだ。
教室の運営には全く興味がないし、営業スキルを問われる仕事はもうたくさんだ。
手紙に綴られた母の気持ち
その場はとりあえず、これまでの実務経験を活かせるような仕事を探していくと伝えてその日は別れた。
帰り際、母が書いたという手紙を渡された。
面と向かって会うのはつらいということで、気持を手紙にしたためたものだという。
そこにはこう書かれていた。
『あなたが結婚して順風満帆の生活を送ることができ、本当に嬉しかった。でも、仕事がダメになったことを知り、最近はふさぎ込むことが多くなった。早く次の仕事を決めてください』
母にも心配をかけていることはもちろん分かっていたが、手紙で気持ちを伝えられると余計に辛い。
この手紙でそれを突き付けられた気がした。
塾での指導がたしかに楽しいが、それだけでは無職という根本的な原因は何一つ解決しない。
だからといって、意気消沈ばかりしていられない。
空元気でもいいから前を向いて、なんとか早く就職先を決めなければ。
確か、以前帰省したとき、母は新しい財布が欲しいと言っていた。
なんとしてもその財布を買ってあげたい。
その役目を果たすべきなのは私だ。
再就職を果たして給料を貯めて、早く財布を買ってあげたい。
良くも悪くも、母からの手紙で前を向かなければと考えることができた。
今度、母と電話でゆっくり話してみようと思いながら帰路に付いた。
